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私がこの地へ嫁いで30年余。団地住まいの我が家の周りには、稲作に勤しむ夫婦の姿が多かった。
その中に、一枚だけイ草の田んぼがあった。
遠い昔、氷の張った田の氷を割り乍らイ草の苗を
植え付け、暑い夏に刈り取り染め粉に塗れ乍ら干す
作業を手伝ったことのある私は、このイ草を作る夫婦に何か特別な親しみを抱いた。
朝は早くから陽が暮れるまで、どっしりと体格のよい夫の後になり先になり乍ら小柄な妻は、甲斐甲斐しく働いていた。イ草作りをやめ米作りだけになってもその姿は続いた。齢を重ね、夫は病に倒れた。右半身に麻痺が残ったが家族に支えられ、田の畔に立つ姿が幾度となくあり、私は安堵したものである。
押し車の左側に妻を随えて散歩の時刻、「はよう行こう」と妻に声をかけるそうな。夫の人生に寄り添う妻のゴールデンタイム。偶然にも出会えた私には宝物となった。