ホーム > 2009年度銀賞受賞作品一覧 > 2009年度銀賞

朝刊が届くと、私の金いろの時間の始まりです。朝食の支度をする私の背中で、夫は、私が興味をもちそうな記事をえらんで朗読してくれます。若い頃アナウンサー志望だった夫は、82歳のいまも低音のよく通る声、歯切れのよい口調です。
臨場感たっぷりに読みあげられるスポーツの結果。夫目線の解説つきで語られる政治や経済・・・。時に感想を返しながら聞いていると、私のこのキッチンが世界とつながっていると感じることができるのです。
お互い定年まで勤めあげ、子を巣立たせ、親を看取りー。結婚から半世紀以上たって手にいれた穏やかな時間です。
生身で生きている限り、幾つになってもブルーな日、グレーな夜はあるものです。でも、明日になればまた、朝のきらきらした光の中で、なにかしら良いニュースを聞くことができる。それも、耳にいちばん馴染んだ夫の声で。「へえ、こんな記事もあるよ・・・」世界の端っこの、このキッチンに立つ朝、私はたしかに幸せです。